中弁連の意見

議  題

鳥取県弁護士会

家事事件手続における子どもの手続代理人制度の改善、
及び、あるべき子どもの代理人制度の創設を求める議題

 

 国は、児童の権利に関する条約第3条が求める子どもの最善の利益の確保及び第12条が規定する子どもの意見表明権の保障に照らし、以下のとおり子どもの代理人制度を改善・創設すべきである。

 

  1.   家事事件手続法によって創設された子どもの手続代理人につき、その報酬を公費から支出すること。
     
  2.  前項の費用が公費から支出されることを前提として、家事事件手続法による手続代理人の選任は、子どもの権利に重大な影響を及ぼす手続きについては必要的なものとし、子どもが選任した手続代理人(以下「私選代理人」という。)がいない場合は、必ず家庭裁判所が職権で選任する(以下「国選代理人」という。)こと。
     
  3.  家事事件手続において、子どもの最善の利益を確保するために、手続代理人選任の適用年齢を民法でいう意思能力の有無に限定せず、子どもが希望や感情を表明できる年齢とする法制度にする方向での検討を開始すること。
     
  4.  家事事件に限定することなく、親子分離や親権の制限を伴う行政手続に関する代理人制度を創設すること。

提案理由

1 家事事件手続法における子どもの代理人制度の改善

 2013年(平成25年)1月1日から施行された家事事件手続法(以下「法」という。)で家事手続きにおける子どもの手続代理人制度が新設された。子どもの代理人制度は、アメリカ及びコモンロー法制諸国、ドイツにあり、これまで我が国には存在しなかったが、その必要性が指摘されてきた。

 このたび、わが国で家事事件分野において新設された子どもの手続代理人制度は、児童の権利に関する条約の影響を受けたドイツの手続補佐人の制度にならったものである。児童の権利に関する条約が求める、子どもの最善の利益を図り、かつ、子どもの意見表明権を保障する第一歩として評価できるが、ドイツの手続補佐人の制度や、先例である諸国の制度と比べても十分とはいえず、以下の改善すべき問題点がある。

 

(1)最も大きな問題点は、手続代理人の報酬負担の問題である。

 手続代理人には、子どもが選任する私選代理人と国選代理人(法第23条第1項による申立による場合と、法第23条第2項による裁判所の職権による場合)がある。いずれの場合も、問題となるのは、代理人報酬の負担問題である。

 子どもが選任する私選代理人の場合には、資力の問題があり、自ら報酬を負担することは困難な場合が多い。また、資力の問題が無くとも、選任行為は報酬負担という義務を伴う法律行為であるから、未成年者の法律行為として取消の対象となるという問題が生ずる。

 他方、国選代理人は、裁判所が必要性を認めた場合にのみ弁護士の中から選任することとなっているが、その報酬は、裁判所が相当と認める額を決定し(同法第23条第3項)、原則として子ども本人が負担することとなっている(同法第28条第1項)。例外として子どもが負担できない場合は、親などに負担を命ずることができる(法第28条第2項)。

 しかし、児童福祉法第28条が規定する都道府県の措置についての承認の審判事件(法第235条)や親権喪失・親権停止または管理権喪失の審判事件などの場合は、関係者が手続代理人の選任に好意的でない場合も予想され、報酬負担の問題が選任の重大な障害となる可能性を否定できない。

 また、子どもの親権や監護権に関する峻烈な紛争の最中に、必ずしも手続代理人の選任に好意的でない親などに、負担を求めることは至難の業である。

 このように手続代理人の報酬負担の問題が障害となる場合は、裁判所もこの点に引きずられて選任に消極的にならざるを得ないことが予想される。

 しかし、子どもの最善の利益を図るのであれば、選任手続は迅速に行われるべきであり、報酬負担問題が障害となってはならない。

 この点、子どもの代理人制度を置いている諸外国の制度は、償還の問題があるとしても、例外なく報酬を公費負担としており、我が国の制度は大きく立ち遅れているといえる。

 この制度が新設されてから、各地の弁護士会が、手続代理人制度の積極的活用を求めるために東京、横浜、千葉、水戸、前橋、長野、新潟、大阪、京都、神戸、名古屋、広島、山口、福岡、大分、宮崎、那覇、仙台、福島、秋田、青森、の21家裁と協議をおこなっているが(日本弁護士連合会(以下、「日弁連」という)の行ったアンケート調査による2013年(平成25年)6月14日現在の集計)、いずれの家裁との協議でも報酬負担の問題が懸案となっている。

 加えて、そもそも、子どもの手続代理人制度の活用に対する裁判所の消極的な態度もかいま見える。「できるだけ使う努力をしたい」と積極的な姿勢を示したのは名古屋家裁のみであり、「子どもの年齢が低ければ参加できないのだから、かなり例外的な活用になるのではないか」(水戸家裁)、「職権での選任は基本的には考えていない」(前橋家裁)、「職権で子どもの手続代理人を選任するケースはほとんどないのではないか」(那覇家裁)という消極的な姿勢も目立ち、中には、「紛争を激化させる可能性がある」(広島家裁)と調査官に反対されたとの報告もある。 報酬負担の問題が解決されなければ、このような裁判所の消極的な態度とあいまって、このままでは、せっかく誕生した子どもの手続代理人制度が利用されないまま立ち枯れてしまう可能性すらある。報酬負担の問題の改善は喫緊の課題である。

 報酬のための資金手当がされないため一部の弁護士が無償の活動を強いられる状況を考慮して、やむなく山口県弁護士会では、両親から速やかに代理人報酬が支払われない場合に備えて、弁護士会が代理人に援助金を支給するような制度を創設した。日弁連は、2012年(平成24年)9月19日に「子どもの手続代理人の報酬の公費負担を求める意見書」を公表し、国選代理人については、「子どもの手続代理人に関する業務を、法テラスの本来業務として位置づけると共に、総合法律支援法の中に家事事件手続法第23条第3項、第28条第1項の規定にかかわらず、法テラスが国選代理人報酬を支払う旨の規定を置くことが必要」とし、私選代理人については、「償還制度をとっている総合法律支援法を改正して、未成年者の民事法律扶助契約では給付制をとることが必要である」と指摘している。公費負担の方法について、現時点において考え得る最良の方策であり、国は速やかにこの日弁連の意見を含む改善を行うべきである。

 

(2)改善すべき点の2点目は、上述のとおりの公費負担がなされることを前提として、子どもに重大な影響を及ぼす手続きについては、手続代理人の選任を必要的とすべきことである。
 現在、手続きにおける子どもの意見の反映は、家庭裁判所の調査官制度の充実によるべきだとの意見も根強く残っている。前述のとおり、報酬負担の困難性とこのような状況があいまって、この制度の積極的活用への桎梏となっている。
 しかし、調査官は裁判所の一構成部分であり、本質的に子どもの立場に立ちきることが困難であるという制度上の限界を超えることができないものである。たとえば、調査官は審判に向けた事実調査しか行えず、子どもの立場に立って、審判の見通しやその後に予想される環境の変化などを説明することはできない。
 したがって、子どもの意見表明権を保障する特別の制度としての手続代理人の新設の価値はきわめて重要である。また、この制度の新設は、家庭裁判所の調査官の制度がありながらも、なおかつ児童の権利に関する条約が求める子どもの最善の利益の確保並びに子どもの意見表明権を保障するためには、子どもの手続代理人を創設すべきであるという議論・検討をくぐって成立したのであるから、我々法曹には、この制度をどの様に充実させるのかという努力を行うべき責務がある。

 さて、新設された制度において、子どもが利害関係参加し、手続代理人を選任できる手続きには以下のものがある。

  • 子の監護に関する処分の審判事件(法第151条)

  • 特別養子縁組の離縁の審判事件(法第165条)

  • 親権喪失・親権停止又は管理権喪失の審判事件(法第168条)

  • 親権者の指定又は変更の審判事件(法第168条)

  • 未成年後見に関する審判事件(法第177条)

  • 児童福祉法第28条による都道府県の措置についての承認の審判事件(法第235条)

  • 子の監護に関する処分の調停事件(法第252条)

  • 養子の縁組後に親権者となるべき者の指定の調停事件(法第252条)

  • 親権者の指定又は変更の調停事件(法第252条)

  • 離婚調停(法第252条)

 以上はいずれも子どもの権利に重大な影響を及ぼすことがらである。

 国選代理人の場合は、これらについて、申立によるものであれ、職権によるものであれ、裁判長が必要であると認めた場合にのみ、手続代理人が選任されることになる。選任の必要性は個々の裁判所の裁量に委ねられることになり、必然的に個々の裁判官や調査官の判断による差異を免れることはできない。

 国選代理人が選任されない場合は、私選代理人がカバーすることになるが、これについては前述のように報酬負担という困難があるだけでなく、そもそも、情報も社会経験も乏しい子どもが適切な選任行為を行い得るのかという実際上の困難がある。子どもの最善の利益を確保することを考慮した場合、いずれの場合も特定の手続(その範囲は、今後の検討の課題であるとしても)については、必要的選任制度とすべきである。

 

(3)3点目の問題は、家事事件手続等において、手続代理人選任の適用年齢を民法でいう意思能力の有無に限定せず、子どもが希望や感情を表明できる年齢からとする法制度を検討する必要性である。
 家事事件における子どもの手続能力は原則として否定されている(法第17条、民事訴訟法第31条)。しかし新設された制度においては、前述の一定の事件について子どもが自ら①事件の申立(但し実体法上申立権が付与されているもの)、②当事者参加(法第41条)、③利害関係参加(法第42条)などの一定の手続を行うことを可能にした。もっとも、この手続を行うには、法文上は明記されていないものの、意思能力、すなわち事理弁別能力の備わっていることが前提になっている。子どもの意思能力すなわち手続能力の有無は個別的に判断されるが、下限は小学校高学年程度と言われている(増田勝久「家事事件手続における『子どもの代理人』戸籍時報676号10頁」)。

 これは、新設の手続代理人の制度が、児童の権利に関する条約第12条の意見表明権に由来する制度だからである。すなわち、児童の権利に関する条約第12条には、「自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。」とあり、そして、ここでいう「自己の意見を形成する能力」とは、「いろいろな条件を考慮したうえで合理的な判断を下せる」能力を指し、単に自分の希望だけを表明できる子どもは含まれないと解されているからである(畑多野里望 逐条解説「児童の権利条約」81頁以下)。
 その結果、新設の手続代理人の制度では、意思能力が無いとされる0歳から小学校高学年程度までの年齢の子どもは、適用範囲から外れ、手続代理人が選任されないこととなる。

 しかし他方で、児童の権利に関する条約の一般条項である第3条は、児童に関するすべての措置に関し、司法・行政・立法機関に対して、子どもの最善の利益を考慮することを求めている。これを実現するには、むしろ意思を形成する能力が備わらない子どもにこそ代理人を選任する必要性が高い。この点に関し、児童の権利条約の制定作業過程で、「まだ、自己の意見を形成する能力のない児童」の「最善の利益」が図られるための条約上の規定が置かれるべきであるという指摘がなされており、児童の権利条約上の未解決の課題であることに変わりはない(前掲書82頁)。

 さて、子どもは生まれ落ちたその瞬間から、我々社会の一員として家族や社会にはぐくまれながら成長・発達を保障されなければならない。家事事件の手続きなどにおいても、家族や社会は子どもの欲求に向き合い心と耳を傾け、受け止めなければならない。児童の権利条約第12条が規定する子どもの意見表明権が「自己の意見を形成する能力」のある子どもへの権利であるとしても、子どもの最善の利益を図るためには、まだ自己の意見を形成する能力の無い子どもであっても希望や感情が無視されるべきではなく、手続代理人によって十分に傾聴され手続に反映されなくてはならない。また、手続代理人から必要な情報を与えられ自己の意見を形成する能力を高められるべきである。
 このような意味から現行の子どもの代理人制度は、まだまだ不十分である。手続代理人は「自己の意見を形成する能力」のある子どもの意見表明を援助するだけではなく、その職務を通じ広く子どもの希望や感情を手続に反映させ、そのことによって子どもの最善の利益をも追求することができるものにすることを検討すべきである。

 

2 子どもの代理人制度の拡張

 さらに、親子分離や親権の制限を伴う行政手続に関しても、子どもの代理人制度が必要である。 児童福祉法を中心とした児童虐待防止法制があり、一部は、家事事件手続にリンクして、手続代理人の選任が保障されているが、そのほとんどは行政手続きであり、手続代理人制度の適用はない。

 行政手続きである児童福祉法第33条の一時保護などの親子分離が、子どもの最善の利益に沿って適正になされているか、同法第27条の児童福祉施設入所措置や里親への委託に問題がないか、現実に確認することは容易ではない。また、親子分離によってさらに問題が困難化するケースや施設内虐待や里親による虐待が後を断たないが、親子分離や親権の制限を伴う行政手続で子どもの意見が尊重されることはほとんどない。行政手続における子どもの権利保護については、児童相談所等の行政機関の機能強化を図ることによっても問題を解決していかなければならないが、行政から離れた立場で子どもの権利擁護に関わる子どもの手続代理人の制度を拡張することで、行政との相互補完機能を持たせ、より高次の子どもの権利保護を目指すことが可能となるものといえる。

 子どもの最善の利益を図るためには、これらに関しても法制度の改正により代理人制度を創設すべきである。

 

3 まとめ

 子どもの代理人制度という画期的な制度の新設に、法曹関係者はもちろん多くの国民が期待を寄せている。しかし、積極的な運用が始まっているかと言えば必ずしもそうではない。問題が報酬負担の点だけではないにせよ、報酬負担の問題が解決されれば大きく前進することは明らかであろう。

 また、わが国の子どもの代理人制度は生まれたばかりであり、多大なる可能性を秘めている。子どもの最善の利益という観点からは、将来的にその意義を深め適用範囲を拡大していく議論は絶えず行っていくべきである。

 そこで、国に対し、子どもの代理人制度の改善すること、ならびに制度の拡大およびそのための検討の開始を求める。

以上