中弁連の意見

中国地方弁護士会連合会は、最高裁判所に対し、すべての被疑者・被告人が、円滑かつ確実に裁判所構内での接見ができるようにするため、また、弁護人が、秘密交通権の侵害を受けないようにするため、接見室のない裁判所について、接見室を整備するよう求める。

以上のとおり決議する。

2018年(平成30年)9月14日
中国地方弁護士大会

提案理由

1 秘密交通権の侵害

2016年(平成28年)11月4日、鳥取地方裁判所倉吉支部で、接見交通権侵害事件が発生した。弁護人が希望した裁判所構内での接見(以下「構内接見」という。)について、裁判所は、接見時間を10分とする勾留質問室での秘密接見を指定したにもかかわらず、刑事収容施設職員(鳥取刑務所:未決)が、アクリル板がないことを理由に接見時の刑事収容施設職員の立会いを求め、その求めを弁護人が拒否したところ、接見をさせずに刑務所に連れて帰ったという事案である(鳥取地裁平成29年(ワ)95号事件として係属中)。
刑事収容施設職員は、勾留質問室にアクリル板がついていなかったことから、逃走、物の授受及び弁護人への暴行などの危険があると主張した。構内接見の際に接見条件を指定できるのは裁判所のみであり、裁判所の判断を無視した刑事収容施設職員による立会要求及び連れ帰り行為は、不当な接見交通権の侵害にほかならず、到底許されるものではない。もっとも、本件のような事件は、接見室があれば生じえなかったこともまた事実である。このような、接見室がないことが要因で弁護人の接見が認められなかった事件や接見室での構内接見に関する事件は過去にもいくつか見られた。

 

2 接見室に関連する裁判例等

(1)名古屋地裁平成8年3月22日判決(第三次伊神国賠)
 弁護人が公判終了後の被告人との接見を裁判官に申し入れたところ、裁判所は、弁護人の申し入れを拒否し、法廷における接見を認める旨の処分をした。
弁護人は、当該処分について、拘置所長が、裁判所内の接見室に覗き窓がなく、身柄管理上問題があるから裁判所内の接見室での接見は許されないと言明したことなどを問題視し、裁判所は、接見室での接見を実現すべき義務を怠った違法があると主張して国に20万円の支払を求めた。
判決では、法廷内での接見であっても、法廷内に被告人と弁護人のみを在室させ、これ以外の者を退室させたうえで接見させることにより秘密交通権を確保することは一応可能であるとして、弁護人の請求を棄却した(接見室があるのに接見室を使わせずに法廷での接見を指定した事案)。

 

(2)東京地裁平成21年12月21日和解成立(小川国賠)
 勾留質問のために川崎簡易裁判所に押送された被疑者に対して弁護人が構内接見を申し出たが、裁判所は、「前例がない」、「接見の時間も場所もない」などと述べ、当初から接見させる意思がまったくなく、刑訴規則30条による接見の日時・場所・時間の指定についてさえ一切考慮しなかった。弁護人は、憲法34条前段、刑訴法39条1項に反する違法な接見妨害であると主張して120万円の損害賠償を求めた。30万円の和解金の支払いで和解したが、以下の文言が和解条項の主文に明示された。
 「当裁判所は、接見交通権が憲法の保障に由来する重要な権利であることに鑑み、弁護人または弁護人になろうとする者から裁判所構内における被疑者との接見の申入れがあった場合には、原則として速やかに接見が実現されるべきものと考え、本件審理に顕れた一切の事情を考慮して、当事者に対して和解を勧告した。原告及び被告は、上記和解勧告の趣旨を踏まえ、下記のとおり和解することに合意した。」

 

(3)東京地裁平成29年(ワ)13522事件(係属中)(第三次井上国賠)
 ①家庭裁判所送致日において、観護措置決定手続前に、付添人が家裁において少年と面会しようとしたところ、裁判官から面会のための設備がないことを理由に面会の実施が拒否された。②審判日に、審判前に、付添人が家裁において少年と面会しようとしたところ、少年鑑別所職員の立会いを要求され、立会付きの面会を強要された。

 

(4)小括
 以上で紹介したとおり、これまでも、接見室での構内接見に関する事案、接見室がないことによる接見拒否の事案は裁判で争われることがあった。特に、接見室がないことを理由に接見をさせないことは、接見交通権の侵害に直結する危険性がある。本決議案の最初に紹介した倉吉での接見妨害事案についても、接見室がないことも相まって、鳥取刑務所が裁判所の接見指定を無視して違法な接見妨害を行ったものであり、接見室整備の必要性をあらためて確認する必要がある。

 

3 全国の裁判所の接見室の状況

2017年(平成29年)7月14日付毎日新聞によれば、接見室のない裁判所(独立簡裁はのぞく)は、全国で63庁ある(家裁本庁8庁、地家裁支部55庁)。中国地方では、広島家裁、岡山地裁新見支部、山口地裁萩支部、同宇部支部、松江地裁浜田支部、鳥取地裁倉吉支部で接見室が整備されていない(ただし、広島家裁は、平成29年度中に接見室が整備された。)。とりわけ支部において接見室整備が遅れている事態が明らかになっており、被告人・弁護人の権利擁護のためにも、接見室の整備が望まれる。

 

4 構内接見の重要性

(1)構内接見は、公判の直前・公判中・公判の直後に行うこと、裁判所内で行うことが他の接見との違いであり、この点に最も重要な意義がある。被告人は、公判の直前は緊張し、不安になるのが通常である。この緊張や不安を取り除くには、公判直前に、しかも、裁判所内で接見を行うしか方法はない。前日の夜にいくら警察署や拘置所で面会をしていても、公判当日、実際に裁判所に行った後に生じる緊張や不安の発生を防ぐことはできず、もちろん取り除くこともできない。また、被告人は、公判直後は、公判で疲弊し、興奮していたり、絶望していたりする。公判直後の接見は、被告人のむき出しの素直な気持ちを聴くことができる絶好の機会であり、直前に行われた公判の内容を説明し、振り返り、すぐに気持ちを落ち着かせることのできる唯一の機会でもある。
また、例えば、逮捕から勾留請求までの計72時間の間に、初回接見を行う場合、できるだけ早期に弁護人のアドバイスを受ける必要があり、勾留質問の前に構内接見ができることが望ましい。
さらに、公判中に被告人が混乱して以前弁護人に話したことと異なる内容の供述をし始めたときなど、不測の事態が生じた場合には、被告人の権利擁護のために、休廷させて緊急の打ち合わせを行う必要がある。この場合は、裁判所構内で接見を行うしかないところ、仮に裁判所に接見室が無い場合、法廷にいる裁判官、検察官、事務官、傍聴人を退席させて、弁護人と被告人との打ち合わせをする機会を設けなければならないが、裁判所に接見室があれば一時休廷してもらって接見室で接見をすることができる。
そして、特に裁判員裁判などでは、審理の途中に弁護方針を確認する必要が生じることがあり、休憩時間を利用して打ち合わせをする必要性が高い。審理終了後も、毎回夜間接見の予約をして拘置所に面会に行くことは現実的には困難であり、短時間で済む用件であれば、裁判所での構内接見を活用することが望ましい。そもそも、事前予約をしていないと夜間接見ができない可能性もあるため、審理終了後に急遽打合せが必要となった場合には、構内で接見を行う必要性が高い。

 

(2)接見交通権そのもの重要性は、最高裁昭和53年7月10日判決が、「憲法34条の保障に由来する弁護人等との接見交通権は、身体を拘束された被疑者が弁護人の援助を受けることができるための刑事手続上最も重要な基本的権利に属するものであるとともに、弁護人からいえばその固有権の最も重要なものの一つである」と判示したとおりである。また、最高裁平成11年3月24日判決が、憲法34条前段について、「単に被疑者が弁護人を選任することを官憲が妨害してはならないというにとどまるものではなく、被疑者に対し、弁護人を選任した上で、弁護人に相談し、その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障しているものと解すべきである」と判示するとおり、憲法34条が保障する弁護人依頼権は単に弁護人に依頼することができるという形式的な権利保障にとどまらず、その核心において実効的な弁護を受ける権利という形で実質的に保障されなければならない。そして、実効的な弁護を実現するためには、接見交通権を保障することが不可欠である。接見は、刑事弁護活動の核心・本質であり、どの裁判所であっても、被告人・弁護人に等しく保障されるもので、侵害されてはならない。

 

5 おわりに

接見室の整備については、予算上、建物構造上の問題があるかもしれないが、その問題によって、被告人・弁護人の接見交通権行使の制約が生じてはならない。裁判所に接見室さえあれば、被告人・弁護人の構内接見の権利は十分に保障され、また、これまでに生じている裁判所、刑事収容施設、弁護人間での衝突・混乱も回避可能である。よって、裁判所は、接見室の整備を積極的にすすめるべきである。

以上