中弁連の意見
中国地方弁護士会連合会は、犯罪被害者等がそれぞれの犯罪被害者等に寄り添った必要な支援を受けるため、国、中国地方における各県及び各市町村に対し、
1 犯罪被害者等に寄り添った必要な支援をワンストップで行うために、司法、医療、福祉及び行政それぞれの多数の機関が連携したワンストップの犯罪被害者等支援体制を整備すること
2 犯罪被害者等に寄り添った必要な経済的支援、司法的支援及び医療的支援のため、犯罪被害者等への直接支援及び犯罪被害者等を支援する人的資源のための必要な予算措置を講じ、犯罪被害者等を支援する専門性を持った人材の充実を図ること
を求める。
以上のとおり決議する。
2025年(令和7年)10月31日
中国地方弁護士大会
提案理由
第1 犯罪被害者等を支援する制度
1 はじめに
誰もが犯罪等(以下「犯罪等」とは「犯罪及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす行為」をいう。)の被害に遭う可能性がある。
このような犯罪等による被害を受けた人は、その犯罪等そのものによる直接的被害として、生命・身体・財産等の権利を侵害されるだけでなく、加害者及び第三者からの副次的(二次的・三次的)な被害に苦しめられ続けることがある。ここで被害を受けるのは、直接の被害者本人だけでなく、その家族や被害者死亡事案における遺族も含まれる。本決議において、「犯罪等により害を被った者及びその家族又は遺族」を「犯罪被害者等」という。
このような犯罪等による被害について第一次的責任を負うのは加害者であるが、加害者の資力不足等により被害回復のための対応が行われないことは非常に多い。
そのため被害回復等がされず苦しみ続けてしまう犯罪被害者等を支援するため、犯罪被害者等の自助グループによる支援、法制度の整備、民間の被害者支援機関・団体(被害者支援センター等)の設立などの犯罪被害者等の支援のための様々な取組・施策が行われてきた。
2 法制度について
(1)法律
安全で安心できる社会の実現を図る責務を有する国及び地方公共団体は、犯罪被害者等の権利利益の保護を行う責務を負っているというべきである。
このような考え方から、1980年(昭和55年)に経済面での補償を目的とした「犯罪被害者等給付金支給法」が制定され、その後も補償範囲を拡大する趣旨での法改正が続いている。
また、2004年(平成16年)に犯罪被害者等の権利利益の保護を図ることを目的とした「犯罪被害者等基本法」(以下「基本法」という。)が制定されている。
(2)条例
犯罪被害者等の支援を行うにあたり、生活に直接かかわる施策を行う住民に身近な基礎自治体である市町村の果たす役割は重要である。そして、都道府県は市町村を包括する広域の地方公共団体であり、犯罪被害者等支援を充実させるためにその果たすべき役割もまた重要である。
このような地方公共団体が犯罪被害者等支援の財政上の措置及び人員整備等の犯罪被害者等支援を充実させるための根拠が必要となることから、各地で犯罪被害者等支援を目的とした条例が制定されていった。
3 犯罪被害者等基本計画
基本法第8条に基づき、2005年(平成17年)の第1次犯罪被害者等基本計画策定以降、第3次まで犯罪被害者等基本計画が策定され、2021年(令和3年)3月には「第4次犯罪被害者等基本計画」が策定されている
第4次犯罪被害者等基本計画においては、4つの基本方針として、①尊厳にふさわしい処遇を権利として保障すること、②個々の事情に応じて適切に行われること、③途切れることなく行われること、④国民の総意を形成しながら展開されること、が示されている。
その上で、5つの重点課題として、①損害回復・経済的支援等への取組、②精神的・身体的被害の回復・防止への取組、③刑事手続への関与拡充への取組、④支援等のための体制整備への取組、⑤国民の理解の増進と配慮・協力の確保への取組、が示されている。
4 犯罪被害者等支援に関する中国地方弁護士会連合会の決議
当連合会においても、2016年(平成28年)10月14日に「性暴力被害者支援の一層の充実を求める決議」が行われ、2022年(令和4年)10月7日に「犯罪被害者等支援に特化した条例の制定、改正及び実効的運用を求める決議」が行われている。
5 被害者支援機関・団体設置の流れ
犯罪被害者等の支援を行うために、民間の被害者支援機関・団体が各地で設立されていき、現在では47都道府県すべてに民間の被害者支援機関・団体が存在する。また、性暴力被害者への支援の充実の必要性から、性暴力被害者のためのワンストップ支援センターも各地で設立されていき、2018年(平成30年)10月までに性暴力被害者のためのワンストップ支援センターが47都道府県すべてに設置された。
第2 犯罪被害者等を支援する制度のあり方
このように犯罪被害者等の支援のための制度や施策が存在するが、未だ発展途上といえるものであり、個々の犯罪被害者等に寄り添った適切な支援が十分に行われているとはいえない。
犯罪被害者等に対する支援のあり方として、犯罪被害者等が属性及び能力等の違いに関わらず、それぞれの犯罪被害者等に寄り添った適切な支援を受けることができる支援体制が整備されるべきである。そして、そのような支援体制は、制度としての安定性を持つべきであり、短期的・属人的なものであってはならない。
第3 ワンストップの犯罪被害者等支援体制整備
1 ワンストップの犯罪被害者等支援体制がないことによる問題
(1)犯罪被害者等は、事案の性質や個々の事情によって、それぞれ異なった困難な状況に陥ることから、犯罪被害者等に必要な支援は、それぞれの状況や必要性に応じて変わるものである。
そして、1週間程度の入院治療を伴う傷害の被害から想定される問題だけでも、怪我の治療、入院手続、治療費、治療に伴う休業、休業に伴う収入減少、休業による失職の危険、加害者への刑事処罰の有無、加害者の刑事処分に伴う供述録取等の負担及び加害者から怪我を負わされたことによる恐怖等、司法、医療、福祉及び行政に関する様々な問題が生じるといえることから、そのような問題に対応するための支援制度も多岐にわたる。
現状の犯罪被害者等の支援制度においては、支援制度を所管する機関が複数存在し、それらが統一されておらず、窓口が複数存在することから、以下のような犯罪被害者等にとっての困難が存在する。
(2)まず、犯罪被害者等は、どのような支援制度が存在し、どこに行けば支援が受けられるのかが分からないことが通常である。
そして、支援を受けることができる窓口が分かったとしても、必要な支援を受けるために、犯罪被害者等がそれぞれの支援制度の窓口で何度も被害についての話をしなければならなくなってしまう。被害について何度も話さなければいけないということは、それ自体が大きな負担となるものであり、二次被害と評価される事態となることもある。
また、被害者は、被害による影響で気力も体力も乏しい状態で、必要な支援制度に自ら申請をしなければならない。さらにはそのような支援制度の申請のためには、様々な異なる場所にある支援制度窓口に被害者が実際に赴かなければいけないということもあり、被害者自身が動かなければならず負担が大きい。この負担には、犯罪被害者等の精神的負担及び身体的負担が含まれることは当然であるが、公共交通機関の利便性が低い地域であるという事情や犯罪被害者等の心身の状況から公共交通機関を利用することが困難であるといった事情から、タクシーでの移動をせざるを得ないことも少なくなく、その場合、移動のための交通費という経済的負担をも含むものになる。
具体的には、民間の被害者支援センターに相談をし、既に別居避難済みのDV事件の被害者が、住民票の秘匿措置を行うために、DV事件加害者も訪れる可能性がある市町村役場の窓口にタクシーで赴かなければいけないといった事態が想定される。
(3)上記で挙げるどのような支援がどこにあるのか分からないという問題は、犯罪被害者等のみならず、犯罪被害者等の支援を行う機関・団体にとっても同様に問題になってくるものである。所管の異なる複数の支援制度が存在することから、犯罪被害者等の支援機関・団体が、支援制度を十分に把握すること等ができていないために、犯罪被害者等に必要な支援制度に繋げることができず、結果、適切な支援を行うことができない事態が生じることがある。
2 ワンストップの犯罪被害者等支援体制
(1)以上のような問題に対応するために、個々の犯罪被害者等が支援を必要とする際に、いずれかの機関・団体に相談や問合せを行えば、その後は必要な支援が様々な機関・団体によって途切れなく提供されるワンストップの犯罪被害者等支援体制が構築されることが必要である。
犯罪被害者等に必要な支援は、それぞれの状況や必要性に応じて変わるものであることから、このような体制構築のためには、司法、医療、福祉及び行政の多数の機関が連携することが必要である。
このような多機関の連携にあたっては、犯罪被害者等が何度も話をせざるを得ない事態となることの防止や迅速な支援等のために、各機関に存在する守秘義務を考慮した上での情報共有を行う必要性もある。
そして、安定したワンストップの犯罪被害者等支援体制を構築するためには、連携を行う必要のある多数の機関・団体の役割を明確にし、それぞれの機関・団体相互の認識を共有した上で、そのワンストップサービスの中核的役割を担う機関・団体を明確化すべきである。
このようなワンストップの犯罪被害者等支援体制の必要性については、2024年(令和6年)4月の「地方における途切れない支援の提供体制の強化に関する有識者検討会」の取りまとめにおいても確認されているものであり、これを受けて2024年(令和6年)9月には警察庁の長官官房犯罪被害者等施策推進課による「犯罪被害者等支援におけるワンストップサービス体制構築・運用の手引き」が策定されている。
(2)他方で、具体的にどのようなワンストップの犯罪被害者等支援体制を構築するのかという点については、確立したモデルといえる体制があるとはいえず、地方の実情に応じて、検討すべき事項が多いというべきである。
例えば、どのような機関・団体が、実際の犯罪被害者等支援における多機関連携のコーディネート機能を果たすことになるのかという点が問題となる。
犯罪被害者等支援の沿革から、民間の被害者支援機関・団体が有する支援における知見及び経験の蓄積は高く、性暴力被害者支援については47都道府県すべてにワンストップ支援センターが設置されており、性暴力被害者支援のワンストップ支援センターにおける「ワンストップでの支援体制」についての知見及び経験の蓄積が高いといえる。
このような既に支援に関する知見及び経験の蓄積のある機関・団体がコーディネート機能を果たすという考え方がある一方で、様々な犯罪被害者等に寄り添った多機関の連携による支援を行うためには、各機関・団体が有する犯罪被害者等に対する専門的な直接支援機能と総合的なコーディネート機能を区別することが必要であるという考え方もある。
この点について、「地方における途切れない支援の提供体制の強化に関する有識者検討会」及び「犯罪被害者等支援におけるワンストップサービス体制構築・運用の手引き」では、都道府県が、広域自治体として、関係機関・団体から成る多機関ワンストップサービスの中核的役割を担い、犯罪被害者等施策を総合的に推進することが期待されている。また、国は犯罪被害者等施策を総合的に立案・実施する立場として全国的な斉一性を図ること、市町村は生活を支援する制度・サービスを所管する住民にとって最も身近な基礎自治体として多機関ワンストップサービスに参画し、犯罪被害者等施策を推進することが期待されている。
基本法において示される地方公共団体の責務に加えて、ワンストップ支援体制の整備における財政上の措置、生活支援のための様々な制度・サービスに関する行政的知見及び情報共有等の法的課題に対する検討の必要性からは、都道府県が、広域自治体として、多機関ワンストップサービスの中核的役割を担い、コーディネート機能に関わることは相当である。
また、現在、民間の被害者支援機関・団体や性暴力被害者支援のワンストップ支援センターには様々な運営形態があり、各地方公共団体との関係性もそれぞれ異なる。
このことからは、都道府県は、司法、医療、福祉及び他行政機関並びに既存の犯罪被害者等支援機関・団体それぞれの職責・能力を尊重して、多機関の連携を図るべきである。その上で、その地域の実情及び具体的事案の内容に応じ、実際のコーディネート業務について、都道府県に配置されたコーディネーターがそれを担うことだけでなく、コーディネート機能を果たすことのできる組織やその所属職員に委託をすることも考えるべきである。
さらに、短期的・属人的ではない安定した支援体制の構築及び多機関の連携のためには、このような国及び地方公共団体を含む多数の機関・団体が、ワンストップ支援体制において果たす役割について、法律若しくは条例により、それぞれの役割・責務を明確にすべきであり、条例においては地域の実情に応じた各機関・団体の役割・責務の明示が行われるべきである。
3 鳥取県の取組から考える効果と課題
(1)鳥取県の取組
このようなワンストップの犯罪被害者等支援体制について、その必要性が明らかであったとしても、その具体的な体制構築のための検討事項は多いといえるところ、実際のワンストップの犯罪被害者等支援体制の取組の例として、鳥取県の取組が挙げられる。
2024年(令和6年)4月、鳥取県は、犯罪等の被害に遭った人やその家族を支援する専門機関として、知事部局に「鳥取県犯罪被害者総合サポートセンター(以下「サポートセンター」という。)」を新設した。
サポートセンターは、本部を鳥取市にある県庁舎内に置いた上で、県中部と西部にも事務所(支所)を設置している。
また、サポートセンターでは、職員として、鳥取県警察職員を配置して、県と県警察の身分を相互に併任させることにより、支援に必要な情報を県と警察で迅速に共有し、被害直後から支援を提供するとともに、福祉や精神医療の知見を有する専門職員も配置し、ケアマネジメントの手法による支援調整、フォローアップ、市町村窓口のサポートを行う等、多機関連携のためのコーディネーター機能を持たせている。
さらに、同一執務室内に民間の被害者支援団体「とっとり被害者支援センター(ペアーズとっとり)」「性暴力被害者支援センターとっとり(クローバーとっとり)」の拠点が所在して、ワンストップによる支援の提供が可能な体制が設けられている。
(2)鳥取県の取組の効果
このような従前の支援経験等に基づく専門知識を有している民間団体と福祉や精神医療の知見を有する専門人材とがワンフロアに集結して犯罪被害者等支援のための業務を共に進めることによって、①日常業務として行われる情報共有や相互の意見交換等を通じた支援に係る知見の深化と蓄積、②専門人材の配置を通じた犯罪被害者等の生活再建に必要な多岐にわたる社会福祉制度の利用等への迅速な接続、③県行政が主体的に関わることによる民間支援団体における費用負担面での不安の軽減、④行政職員の支援活動への参画による市町村等での行政手続における被害者の負担軽減、⑤コーディネート機関と直接支援機関の拠点が同一執務室内にあることによる支援提供までの速度の向上といった効果が生じていると指摘されている。
特に、②の社会福祉制度の利用への迅速な接続や④の行政手続における被害者の負担軽減については、犯罪被害者等が実際に窓口に赴かなければいけないとしても、事前に行政手続をよく知るサポートセンター職員が、複雑多岐にわたる市町村の支援制度の情報を整理し、1回で複数の手続きを行うことができるように調整をすることが可能となってきており、より効果が発揮されている。そして、この窓口に赴く場合の交通手段についても、サポートセンターが、犯罪被害者等に費用面での負担が可能な限り少なくなるように支援をすることができている。また、行政機関の支援制度については、申請をして審査を経ないと支援の可否が分からないものがあるが、そのような審査結果の見込みについても、行政手続をよく知るサポートセンター職員が確実性の高い見込みを立てることができるようになっている。
(3)鳥取県の取組の課題
サポートセンターの設置から、約1年半が経過した現在において、既に一定の効果が表れているといえるが、ワンストップでの支援を試みる中で指摘される以下のような課題も存在し、サポートセンターは改善のための検討を重ねている。
サポートセンターは、既存の支援制度や支援機関・団体を活用し、既存の支援をそれぞれの犯罪被害者等に寄り添ってコーディネートしていくことから、サポートセンター設立前に鳥取県内に存在していた支援制度・支援窓口は変わらず存在している。このことから、鳥取県内では、犯罪被害者等が相談する窓口が重複して複数存在していることになる。これは、犯罪被害者等の混乱を招く可能性があり、その混乱の回避が必要である。
そして、サポートセンターと同一執務室内に存在する支援機関以外の犯罪被害者等支援において重要な役割を果たす機関や支援者(市町村、弁護士、検察庁、児童相談所、女性相談支援センター(旧:婦人相談所)等)との連携には課題が認められる。特に、連携を進める基礎となる情報共有について、法的な根拠が存在しないことから、犯罪被害者等本人の同意手続が進むまでの間、必要な支援への接続の遅れや接続不可能な状況が生じることがある。そのため、犯罪被害者等が何度も同じ話をしなければいけない事態が生じうる状況である。
さらに、鳥取県内と県外との支援体制に違いがあることから、支援活動における他都道府県との連携場面において被害者に大きな負担が発生することが懸念されている。
4 まとめ
以上のように、ワンストップでの犯罪被害者等支援体制を構築することが必要であり、鳥取県の取組からそれが犯罪被害者等に寄り添った適切な支援を行うことに資することは明らかである。
したがって、国及び地方公共団体は、それぞれの責務に基づき、司法、医療、福祉及び行政それぞれの多数の機関が連携したワンストップの犯罪被害者等支援体制を整備する施策を進めるべきである。
第4 財政的課題・人材の課題
1 財政的課題
(1)犯罪被害者等に対する経済的支援については、その支援の範囲は広がりつつあるといえるが、犯罪被害者等の受けた経済的損失を十分に填補するものとはいえない。例えば、身体的被害による治療や精神的被害に関する心理的カウンセリングについて、公費負担制度自体は存在しているものであるが、その内容は都道府県毎に異なるものであり、その公費支出金額、対象期間及び対象罪名等の条件により支給制限が行われることもある。
犯罪被害者等は、犯罪等の被害についての適切な治療を受ける権利の保障もなく、犯罪等に起因する休業に伴う補償も十分でないことから、日常生活を送ることもままならない事態に陥ることがある。
(2)また、犯罪被害者等に対する直接的な経済的支援だけでなく、犯罪被害者等を支援する民間支援機関・団体についての財政的課題が存在する。支援機関・団体を組織として維持するための拠点に関する運営費が必要となることは当然のことであるが、それよりも実際に支援を行う人の人件費の問題が大きい。
具体的な問題の表れとしては、運営費や医師の確保の問題から、民間の病院を拠点とする性暴力被害者のワンストップ支援センターの存続が危ぶまれる事態が生じている。
大阪府にあるNPO「性暴力救援センター・大阪SACHICO」は、民間の病院を拠点に、「ワンストップ支援センター」として、24時間体制で産婦人科医による診察や様々な支援を行い、日本全国の性暴力被害者ワンストップ支援センターを牽引するような立場で、日々性暴力被害者への支援に尽力をしている。また、大阪府には犯罪被害者等の支援を目的とする条例も制定されている。
しかし、近年、運営費や医師の確保などが難しくなり、拠点である病院からの退去を求められる事態が発生した。これについて、公立病院に新たな活動拠点を設置することを求める請願が大阪府議会に提出されたが賛成少数で不採択となった。その後、大阪府からの委託事業として、大阪府の施設である「こころの健康総合センター」内に「性暴力救援センター・大阪SACHICO」の拠点を確保する予定となっているが、医療との連携の面においては、病院を拠点とするのではなく、病院外から連携する方法に変更となるなど、元々の「性暴力救援センター・大阪SACHICO」の支援体制からの変容を余儀なくされる状況になろうとしている。
2025年(令和7年)8月現在、「性暴力救援センター・大阪SACHICO」による医療とその他の性暴力被害者支援が一体となった緊密な連携支援を継続することの重要性から、その支援活動を存続するために力が尽くされているが、未だ状況は流動的である。
(3)このような財政的問題について、民間の自助努力や個人の善意での対応には限界があるといえるものであり、国及び地方公共団体による予算措置に基づく施策が必要であることは明らかである。
2 人材の課題
(1)犯罪被害者等の支援について、犯罪被害者等に寄り添った支援を専門的に行うことのできる能力を持った人員は、常に不足している。これは、司法、医療、福祉及び行政すべての分野において共通する課題である。
医療の面の例としては、専門性や緊急性の高い対応を必要とする医療支援を行うことのできる医療関係者が少ないという点が挙げられる。例えば、性器挿入を伴う性被害を受けた女性に対する医療支援として、避妊、性感染症検査及び傷害治療等が想定される。この内の避妊については、被害時から72時間以内(遅くとも1週間以内)に行うことが必要となる。また、妊娠反応の確認や性感染症の検査という点からは、2回以上の受診が必要となることもある。また、司法手続のための証拠資料採取が必要となることも多い。さらに、このような医療支援において、二次被害の防止や個人情報保護への配慮も必要となるものである。
このような医療支援は、通常の医療業務を行っている医療関係者にとって、専門性や緊急性の高さ及び報酬の担保の問題から、負担が大きいといえるものであり、そのような負担に耐えうる医療関係者は多いとはいえない。
司法の面の例としては、DVに関する法律相談申込があった場合、法テラス地方事務所が、法テラスDV等被害者法律相談援助業務として、その弁護士名簿から相談担当弁護士に打診をするものであるが、法テラス鳥取において、1週間に約2~3件のDV法律相談申込があるところ、打診があってから担当弁護士が決まるまでに1日程度かかることが多い状況が確認されている。
(2)このような人材不足という点から、制度として支援制度が存在したとしても、実際に寄り添った支援を行う人員がいない又は数が足りないことから、犯罪被害者等に必要な支援が行き届かないことになってしまう。このような事態は、特に一度に多くの被害者が生じる事件で顕著である。
(3)このような人材の課題は、先に述べた財政的課題と密接に関連している。
人材の課題に対応するためには、犯罪被害者等に寄り添った支援を専門的に行うことのできる能力を持った人材を育成することが必要であり、その人材育成のための費用が必要となる。
また、犯罪被害者等に寄り添った支援を専門的に行うことのできる能力を持った人材がいたとしても、その専門的な働きに見合った報酬がない場合は、その専門家である支援者が経済的困窮状態に陥り、支援不可能となってしまう事態が生じかねない。
したがって、犯罪被害者等に寄り添った支援を専門的に行うことのできる能力を持った人材に対する適切な報酬の担保が必要である。
3 まとめ
個人や民間の被害者支援機関・団体の善意や負担に頼るような制度では、犯罪被害者等に対する安定した支援を行うことはできない。
国は、地方公共団体や民間の被害者支援機関・団体に対し、必要に応じて所要の財政上の措置を講じるべきであり、地方公共団体は、民間の被害者支援機関・団体に対して、所要の財政上の措置を講じるべきである。
そして、国及び地方公共団体は、必要な財政上の措置を前提とした犯罪被害者等を支援する専門性を持った人員の充実を図り、犯罪被害者等に対して必要な経済的支援、司法的支援及び医療的支援を行うべきである。
第5 結語
以上のように、犯罪被害者等が属性及び能力等の違いに関わらず、それぞれの犯罪被害者等に寄り添った適切な支援を受けるためには、多数の機関が連携したワンストップの犯罪被害者等支援体制を整備することが必要である。
そして、犯罪被害者等に寄り添った適切な支援が安定して行われるためには、その支援を行う能力を有する人材が必要であり、犯罪被害者等に対する直接的な支援及びその支援を行う人的資源のための適切な予算措置が講じられることが必要である。
以上の理由から、本決議を提案するものである。
以上
