中弁連の意見

  1.  広島刑務所の被収容者から同刑務所内における人権侵害の救済が広島弁護士会人権擁護委員会に申立られたことから、広島弁護士会は同刑務所長に対し、申立人の主張事実を調査するため、事実を見聞したとされる受刑者との面会調査を申し入れたところ、同刑務所は「施設管理運営上の支障」を理由に面会を拒否した。広島弁護士会及び調査を担当した同会会員3名は、調査を妨害されたことを理由に国に対し損害賠償請求訴訟を提起していたが、本年3月27日、広島地方裁判所は請求をいずれも棄却する判決を行った。
    なお、広島弁護士会などはこれを不服として控訴している。
     
  2.  昨年、名古屋刑務所における被収容者の死傷事件が明るみに出たのを契機として、刑務所や拘置所における違法にして非人道的な処遇によって多数の被収容者が人権侵害を受けている事実、施設や法務省当局がそれを隠蔽してきたこと、またその人権侵害事実の外部への申立、外部からの調査について刑務所が保安と規律保持を理由に妨害してきた実態が明らかになってきた。
     国際人権規約委員会も、我が国の刑務所での人権侵害に対し強い懸念を示し早急な改善を日本政府に求めている。
     このような状況に対処するためには外部の第三者機関による刑務所、拘置所の人権侵害の有無に関する監視が求められるところ、弁護士法第1条により人権の擁護を任務としている弁護士会がそれを担う重要な機関として位置づけられることは当然である。
     しかるに、前記判決は、刑務所内において人権侵害が多発している状況のなかで弁護士会における人権擁護活動をおいてこれら人権侵害に対する救済手段がない現在の状況を何等考慮することなく、広島弁護士会の人権侵害に対する調査の申し入れに対し、親族でない者との接見を原則として禁じた監獄法45条2項を適用して面会を拒否した広島刑務所長の行為には、裁量権の濫用ないし逸脱はないと判示したものであり、到底是認することは出来ない。
     
  3.  当連合会は、刑務所に対し、弁護士会の人権擁護活動としての刑務所等への人権救済の調査について、刑務所がこれに応ずることを強く求めるものである。
     また、法務省に対し、法務省から独立した人権救済機関を設置し、被収容者の日常的な苦情を処理し、人権侵害の申立を調査する体制を整備することを求めるものである。
  4.  

2003(平成15)年5月2日

中国地方弁護士会連合会
理事長  臼田 耕造